後半部分「第4章 メタボリック狂騒曲」「第5章 『善意の医療』が消える?」「第6章 健康監視社会の到来」「第7章 保険は国や会社に頼るな」
「第8章 日本の『医療』に希望はあるのか」から付箋を貼った部分を抜粋して以下に引用。


 そもそも太っていることが健康に悪く、そして国が本気で国民の健康を願っているのであれば、真っ先にやるべきは、健診でも指導でもなく、カロリーの供給を減らすことではないだろうか。
 健診や指導で国民的に生活習慣病を減らすことに成功した事例は、世界中探してもどこにもない。むしろ健診と指導では生活習慣病は減らないというのは世界の常識である。
 それに対してカロリー供給は、ほぼ確実な成果が期待できる。直接減らすのは難しいことだが、タバコ税と同じやり方で減らすことは十分可能だろう。
 たとえばハンバーガー税を導入すればいいのである。通常のハンバーガーで一〇〇円、ダブルサイズで二〇〇円、メガサイズで三〇〇円、チーズがはさんであればさらに追加で五〇円の税金を課せばいい。ハンバーガーによるカロリー摂取が確実に減る。それによって肥満も大幅に防げること請け合いである。
 ハンバーガーと肥満との因果関係は科学的に実証されていないという意見もあるかもしれないが、そんな心配は最初から無用である。もともと国のメタボ基準にも科学的根拠がないのだから、ちょっとくらい根拠が薄くても問題はない。

(P128)


 

保険点数を金額に直すには、一点を一〇円として換算する。
 ただし例外もある。
 一つは労災による病気・怪我である。労災と認定された患者の医療費は一点を一二円として計算する規則になっている。ただし労災なので全額が労災保険から支払われ、本人負担はゼロである。
 また自動車事故で自賠責保険の対象となった場合、一点あたりの金額は病院ごとに自由に決めていいことになっている。事実上の自由診療である。一点三〇円前後が相場と言われている。ただしもっと高くとる病院もある。この場合も自賠責保険から支払われるため、その制限内において、本人負担はゼロである。

(P138)


 たとえば高血圧や糖尿病患者に対する頭部CT検査である。これらの生活習慣病患者にとって、最も恐ろしいのが脳梗塞や脳内出血の発作だ。そのため多くの病院が、ハイリスクの患者に半年から一年に一回の割合で頭部CT検査を実施している。いわば予防的な検査である。それによって初期の異常が見つかれば然るべき治療や予防策を講じることができるし、異常が見つからなければお互い安心できる。保険の範囲内なので患者の経済的負担も少ない。いいことずくめである。
 ただし現在の規則では、こうした検査は保険の範囲内では認められていない。高血圧も糖尿病も、頭部CT検査の適応疾患にはなっていないからである。そのためレセプト病名として適当な病名を使うことになる。「脳梗塞疑い」などである。
 ところが近頃は審査が厳しくなっており、疑い病名では通らないことも増えてきた。保険財政が逼迫してきている折から、単なる「疑い」だけでは金を出せなくなってきているのである。脳梗塞を疑ったのなら、いきなりCTを撮る前にもっとやるころがあるというのが審査支払機関の言い分だ。

(P148)


 財務省が提案した「保険免責制度」については、今でも議論の俎上に乗ることはあるが、その考え方はまだ国民に浸透していない。
 「保険免責制度」が導入されれば、カゼなどの軽い病気の大半が全額自腹になるはずである。だがそれよりは従来型の医療で、抗生物質だけでは混合診療といった形態のほうがわかりやすい。もちろん大半のカゼに対して抗生物質は効果がない。規則でも普通のカゼには処方できないことになっている。それでも患者の中には抗生物質を欲しがる人も大勢いる。それについては混合治療と言われれば、納得する患者も少なからずいるはずである。

(P193)


 後期医療制度がスタートして、すでに一年以上が経過した。この一年間に、後期高齢者は五〇万人以上も増えた。前期高齢者は一〇〇万人以上増加した。そのため前期・後期を合わせた高齢者医療費は一兆円近くも増加した。
 こうした変化を無視して単純に制度を元に戻せば、負担に耐え切れずに国保組合が即死する。それを防ごうとすれば、今度は運営母体である市町村に時勢負担がかかり、自治体が財政破綻する。しかも以前の制度で問題になっていた、国保組合間の保険料率の格差や、国保と健保の財政格差などを蒸し返すことになる。高齢者医療費の増加にまったく歯止めがかからないといった問題も同様である。

(P220)